【河童(かっぱ)】

《「日本伝奇伝説大事典」乾/小池/志村/高橋・角川書店》



はじめに

 カッパは、日本列島の青森県から沖縄にいたる全国諸地方の川・池・沼・海などの水界に棲み、陸上も歩行する妖怪。カッパという呼称が一般的なものにされているが、土地によっていろいろな呼び方がある。

河童の呼称

名前の系統それぞれの呼び名
ガーッパ系カッパ、ガッパ、ガラッパドンなど
川太郎系カワタロウ、ガタロウ、ガータロ、ガワンタロなど
川原坊主系カワラコゾウ、カワラボウズ、カワソウなど
川の殿の系カワノトノ、カワントン、カワノヌシなど
猿猴系ホンコウ、ユンコサン、エンゴザルなど
その他メドチ、ガメ、ヒョウスンポ、コマヒキなど

由 来

 川祭りとか水神祭を6月に行うが、それは、河童を祀り、好物のキュウリを供える。 昔(石川純一郎「河童の世界」より)、河童は黄河の上流に棲んでいたが、その中の一族が海を渡って九州の球磨川に棲んだ。そこで河童が繁殖して九千匹になった。九千坊と称する族長は乱暴者で、加藤清正が九州の猿を集めて攻めたてたところ、河童は降参して肥後を去り、久留米の有馬公の許しを得て筑後川に棲み、水難除け神の水天宮の使いになったことが『本朝俗諺志』や『倭訓栞(わくんかん)』に載っている。

性 格

 河童は、畑作物を荒らし回ったりするが、その代わり、田植え、田の草取りの手伝いをする。山に入って山ワロとなった河童は、木の運搬を手伝うという。田植えが済んで田に水を引いた後に川祭りをする。 人馬を水中に引き入れようとしたり、人の尻子玉を抜いたりするので、6月15日の祇園祭を中心に前後6日は川や海に入ってはいけないという。 駒を引き損じて逆に捕らえられて腕を取られた例話は全国にある。また厠で女の  尻を撫でて腕を切り取られ、腕を返してもらう代わりに、接骨薬の秘法を伝授し、あるいは、お礼に朝ごとに川魚を届けたという話も各所にある。 河童が悪戯をした代わりに差し出した詫証文というのも例が多い。

福岡市西新町の藤崎神社では

 その年の初庚申の日を祭日とし、小さい猿の面を頒ち、門口に吊して魔除けと盗難除けにする。 少し昔、猿曳が川辺を通るとき、猿に目隠しをするのを見掛けたという。それは、人に見えぬが、猿には河童が見え、河童を見つけると捕らえねば承知しないという話による。

九州の河童

 総元締を海御前といい、これを祀った福岡県北九州市門司区大積の天疫神社が元祖である。 海御前は、壇の浦の戦に敗れて入水した能登守教経の奥方が神になったと言い伝え、河童が端午の節句から出遊とるとき、一同を集め、「汝らは平家の族党なるゆえ、蕎麦の花が咲き出せば、源軍押し寄せたと思い、ただちに山へ引き上げよ」と厳命されていたので、彼等は初秋蕎麦の花が咲き出すと山に帰るという。

カッパ明神と称する東北の宮城県加美郡色麻一関の磯宮神社

 カッパ明神とも称されている。これは坂上田村麻呂の家来東右衛門が水泳の名人であったことから川童といわれていた。東右衛門の死後、川童川のほとりにホコラを作って祀ったものという。

雲仙の満明寺

 ここには、カッパの手が寺宝となって残っており、これは昔、赤峯和尚が諏訪池のカッパの大将を法力で封じたときのものという。

全国の河童の伝説

 文献の上では『日本書紀』に「河伯(かわのかみ)」として(これはたぶん河童のことであろう)、また『耳袋』『甲子夜話』など諸書に伝えられ、『遠野物語』には「その形はきわめて醜怪」とあるが、要するに河童は人間の想像上の妖怪であって、時代を超えて生きている。河童は、水に棲む童子....即ち水神の童子であったが、水神さまの信仰が薄れてしまったために、落魄(らくはく)して水界に棲む零落の妖怪と化したものといえる。


【河童(かっぱ)】

《「日本架空伝承人名事典」大隅/西郷/阪下/服部/廣末/山本・平凡社》


呼 称

 日本で最もよく知られている妖怪の一つで、川や池などの水界に住むという。カッパという呼称は、もともと関東地方で用いられていたもので、エンコウ、ガワタロ、ヒョウスベ、メドチ、スイジン、スイコなどと呼んでいるところもある。

形状・特徴

 地方によりかなり異なっているが、広く各地に流布している一般的特徴は、童児の姿をし、頭の頂に皿があり、髪の形をいわゆる″おかっぱ頭″にしている。 頭上の皿の水が生命の根源であって、そこに水が無くなると死んでしまうという。体の色彩は、赤とするところもあるが、青ないし青黒色、灰色が一般的である。手足には水掻きがあり、指は3本しかないと説くところが多い。 腕に関しては、伸縮自在だとか、抜けやすいとか、左右通り抜けだとかいった奇妙な伝承が目立ち、また人の尻を抜くといわれる。キュウリが河童の好物と考えられており、水神祭や川祭の時にはキュウリを供えて水難などの被害がないことを祈る。

属性・伝承

 河童は、川で遊ぶ子供を溺死させたり、馬を川へ引きずり込んだり、田畑を荒らしたり、人に憑いて苦しめたりするといった恐ろしい属性をもつ半面 間抜けないたずら者という側面もあり、相撲を好み、人間に負けて腕を取られたり、人間に捕らえられて詫証文を書かされたり、命を助けてもらったお礼として人間に薬の製法を教えたりもする。 河童の腕貸伝承などは、こうした好ましい属性を強調したもので、特定の家の主護神となって、田植や草刈りを手伝ったり、毎日魚を届けたりして、その家を富裕にしたという伝承は各地に伝えられている。

河童起源譚(たん)

 最も広く流布しているのは、人造人間説である。 天草地方に伝わる話では、左甚五郎が城を造る際、期限内の完成が危ぶまれたの で、多くの藁人形を作って生命を吹き込み、その加勢を得てめでたく完成した。が、その藁人形の始末に困り、川に捨てようとしたところ、人形達が、これから先何を食べたら良いかと問うたので、甚五郎は「人の尻を食え」と言った。 それが河童になったという。 祇園牛頭(ごず)天王の御子、眷属(けんぞく)と説く地方や、外国から渡来したと説く地方もある。

文献には

 河童を意味する語が文献に現れるのは近世以降である。 それ以前の文献として、しばしば『日本書紀』仁徳六七年条の、吉備の川嶋の川が枝分れしているところにすむミズチが人を苦しめたので、三つのひさごを水に投げ入れて征服した。という記事が引かれるが、このミズチは江戸時代以降の文献に見える河童ではなく、水神としての蛇もしくは竜のことであろう。

河童の解釈など

 現在信じられている河童のイメージは、水辺に出没する猿や亀、天狗、水神を童形とみる考え。 宗教者に使役される護法神、虫送りの人形などが混淆して江戸時代に作られたと考えるべきである。江戸時代には、河童の像や図絵まで作られた。



【その他辞典事典に記されている河童たち......詳細はリンク欄のボタンを押して下さい】

名  前掲載辞典事典備考および簡単説明リンク
【おかっぱ頭】《「からだことば辞典」東郷吉男・東京堂出版》 
【河童(かっぱ)】《「岩波古語辞典」大野/佐竹/前田・岩波書店》カハワラハの転
【河童(かっぱ)】《「岩波日本史辞典」・岩波書店》 
【河童(かっぱ)】《「岩波広辞苑第五版」・岩波書店》 
【河童(かっぱ)】妖怪《「日本大百科事典」・小学館》 
【河童(かっぱ)】《「世界大百科事典」・平凡社》 
【河童(かっぱ)】《「復刻大辭典」・平凡社》河童(かはわらは)が「かはわっぱ」となり、更に約まった語
【河童(かっぱ)】《「大言海」大槻文彦・冨山房》河童(かはわらは)の約なる、かはわっぱを再び約めたる語
【河童(かっぱ)】《「隠語辞典」楳垣実・東京堂出版》 
【河童(かっぱ)】《「民俗学辞典」柳田國男監修・東京堂出版》 
【河童(かっぱ)】《「日本昔話事典」稲田浩ニ他・弘文堂》 
【河童(かっぱ)】《「ブリタニカ国際大百科事典 小項目版 2007」》 
【河童石(かっぱいし)】《「日本昔話事典」稲田浩ニ他・弘文堂》 
【河童川(かっぱがわ)】《「日外難読語・固有名大辞典」・LogoVista電子辞典》宮城県鳴瀬川水系の一級河川 
【民俗学=河童駒引(かっぱこまひき)】《「柳田國男全集=山島民譚集」柳田國男・筑摩書房》 
【民俗学=河童駒引考】石田英一郎著副題「比較民族学的研究」
【河童駒引き(かっぱこまひき)】《「日本昔話事典」稲田浩ニ他・弘文堂》 
【河童相撲(かっぱすもう)】《「日本昔話事典」稲田浩ニ他・弘文堂》 
【河童台(かっぱだい)】《「日外難読語・固有名大辞典」・LogoVista電子辞典》秋田県仙北郡南外村字大杉の地名 
【河童釣(かっぱつり)】《「日本昔話事典」稲田浩ニ他・弘文堂》笑話。巧智者譚。
【河童橋(かっぱばし)】《「日外難読語・固有名大辞典」・LogoVista電子辞典》長野県南安曇郡安曇村。梓川にかかる橋 
【河童(かっぱ)の川流れ】《「岩波広辞苑第五版」・岩波書店》 
【河童(かっぱ)の屁】《「岩波広辞苑第五版」・岩波書店》 
【河童(かっぱ)の屁】《「からだことば辞典」東郷吉男・東京堂出版》 
【河童忌(かっぱひ)】《「岩波広辞苑第五版」・岩波書店》芥川竜之介の忌日。7月24日。 
【河童火やろう(かっぱひやろう)】《「日本昔話事典」稲田浩ニ他・弘文堂》 
【河童巻(かっぱまき)】《「岩波広辞苑第五版」・岩波書店》キュウリを具にした海苔巻き寿し 
【河童聟入(かっぱむこいり)】《「日本昔話事典」稲田浩ニ他・弘文堂》 
【河童屋(かっぱや)】《「隠語辞典」楳垣実・東京堂出版》 
【河太郎(かわたろう)】《「三州奇談」・石川県図書館協会》森下河伯第十一
【妹尾河童(せのおかっぱ)】《「現代用語の基礎知識」・自由国民社》 
【水虎(すいこ)】《「大漢和辞典」諸橋轍次・大修館書店》水中の怪物。かつぱ。一名、水唐。 
【水虎(すいこ)】《「和漢三才圖會」寺島良安・東京美術》「水虎(すいこ)」・「川太郎」の絵あり......掲載許可未定 
【水神(すいじん)】《「岩波日本史辞典」・岩波書店》 
【小説=河童】芥川龍之介著 
【詩集=河童】宗左近著  
【童話=河童】坪田譲治著  
【屁の河童】《「からだことば辞典」東郷吉男・東京堂出版》河童の屁 



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